F××k Cancer①

F××k Cancer①

『それは、ただの痔だと思っていた』

 

今年の4月の初めだった。

最初に異変に気づいたのは、自分ではなかった。

「便器に血みたいなのが付いてるよ」

Ninaにそう言われて、それから自分の便を確認するようになった。

いつもはウォッシュレットを使っているので、あまり自分で便を確認することはなかった。

流してしまう前に見てみると、便の表面にオレンジ色のゼラチン質のものが付着していた。

今度はウォッシュレットをする前に紙で拭いて確認してみる。

それは完全に血だった。

「まあ、痔だろう」

実際、以前から痔瘻があった。

でも、もう4年くらい症状は出ていなかった。

「久しぶりに痔が出血したのかな」

そう考える一方で、

「もしかして大腸癌?」

という考えも一瞬、頭をよぎった。

でも、

「痔であってほしい。きっとそうに違いない」

そんな希望的観測を持っていた。

Ninaと相談して、すぐに検査を受けようということになった。

駅前にある、最先端のシステムを備えた、開業して間もない内視鏡検査専門のクリニックに行くことにした。

ネットで予約を取り、週明けに血液検査、そして週末の土曜日に内視鏡検査を受けることになった。

「きっと痔だろう」

そう思いたかった。

でも、土曜日が近づくにつれて、少しずつ不安になってくる。

自分にとっても、Ninaにとっても、その一週間はとても長かった。

そして土曜日。

内視鏡検査そのものも嫌だったけれど、その前に待っていた絶食と大量の下剤も、当然ながら歓迎できるものではなかった。

便に不純物が混じらなくなるまで、2リットルの下剤をゆっくり飲み続ける。

検査ができる状態になるまで3時間ほど。

ようやく準備が終わり、検査室へ向かった。

 

そして麻酔。

目が覚める。

着替えて、医師の待つ診察室へ。

医師は内視鏡の画像をモニターに映しながら、胃から順番に説明を始めた。

胃。

小腸。

大腸。

S字結腸。

そして直腸。

大腸のところで、2つのポリープの画像を見せられた。

「これは良性腫瘍のようだったので、切除しておきました」

そう言われて、まずは少しホッとした。

そして次に、直腸の画像が映し出された。

そこにあったものを見た瞬間、正直、かなりグロテスクで、憎らしいものに見えた。

医師が言った。

「これなんですが、おそらく進行性の悪性腫瘍ですね。まあまあ大きくて、1/3周性の2型腫瘍になります」

思っていたより、あっさりと受け入れた。

「やっぱ癌なのか」

そんな感じだった。

もちろんショックがなかったわけではない。

ただ、医師の説明の仕方もあったのかもしれない。

それよりも、その後に続いた説明を聞いて、

「これは、やっかいなことになったな」

と思った。

腫瘍は肛門からかなり近い位置にあった。

肛門を温存するためには、ロボット支援下手術が必要になる。

その場合、術前治療として抗がん剤と放射線を組み合わせた治療を行うのがセオリーだという。

さらに、手術後には一時的にストーマ、いわゆる人工肛門を造ることになる。

そして3〜4か月後を目安にストーマを閉鎖し、通常の肛門に戻す。

ただし、ストーマを閉鎖したからといって、すぐに以前と同じように肛門が機能するとは限らない。

適応するまでに時間がかかる場合もあるし、個人差も大きい。

そんな説明を一気に聞いた。

医師からの説明を聞いているうちに、ひとつ気になったことがあった。

「先生、これってステージでいうとどのくらいなんですか?」

すると医師は、

「CTやMRIなどの精密な検査をしないとステージは判断できません。でもほぼ間違いなく悪性腫瘍だと思います。生検に出して結果を待つよりも、時間を無駄にしないで、すぐに大きな病院に行ったほうがいいでしょう」

腫瘍の位置から、ロボット支援下手術に定評のある病院を薦められた。
仙台市内なら、大学病院か仙台医療センター。
「どちらかを選んでください。紹介状を書きます」

と言われ

「まずは家族と相談してから病院を決めます」

と言って診察室を出た。


麻酔を使っているので、帰りにふらついて転んだりしたら危ないということで、Ninaが病院まで来てくれていた。

外は雨だった。

そして、二人とも腹が減っていた。

癌の話を聞いた直後だというのに、腹は普通に減る。

駅前の洋食屋に寄ることにした。

二人ともカレーライスを頼んだ。

そのときはまだ、これから自分の身に起こることを、すべて理解していたわけではなかった。

ただひとつ、はっきりしていた。

7月から予定していたLA行きは、もう無理だ。

エアチケットと宿泊先をキャンセルしなきゃいけない。

癌が分かった日の夜。

僕がまず考えていたのは、そんなことだった。

 

Daddy Kan 

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